松本俊夫『銀輪』『白い長い線の記録』

今日突然思い付いて
「HPF」というのを結成したんですけど、
何かというと

「ハジケたPR映画ファンクラブ」

の略称です!
施主の思惑を飛び越えて大工さんが凝りまくった家のような、
クライアントの当初の目的と作家の創造的なモチベーションが
激しくヒバナを散らしたと思しきPR映画の傑作群
(主に昭和30年代に出現)を愛し、
両者の狭間で寿命をすり減らしたであろうプロデューサーさんを
陰ながら労う、そんなサークル(←なんじゃそりゃ)
会員数1名(←当たり前だ)
で、結成初日から幸先よく!
黒木和雄さん・土本典昭さんたちと並び称せられる
「HPF最重要作家」松本俊夫さんの特集上映が
あるってんで早速出動しました!

幻視の美学・松本俊夫映画回顧展
http://www.imageforum.co.jp/matsumotoretro/
松本俊夫実験映画集 program D<最初期と後期>
(いよいよ明日・1月30日まで!)
『銀輪』1955年/10分/35mm
『白い長い線の記録』1960年/13分/35mm
『エングラム<記憶痕跡>』1987年/13分/16mm
『気配』1990年/20分/ビデオ
『偽装』1991年/20分/ビデオ

もちろん「HPF」のお目当ては最初の二本!
2005年のフィルムセンターにて"発掘"された『銀輪』は*1
「昭和30年」に「東大を出たばかりの新入社員」が
「戦前からのスタッフが主体の短篇映画界」を向うに回して
ほぼ好き放題に実験映像しちゃってるのがスゴイですね…。
「H(ハジケた)P」を超越してもはや「Y(やっちゃった)P」。
(矢部正男・樋口源一郎の両ベテラン監督は後処理リリーフ?)
かなりオシャレな近未来イメージも
「昭和30年」という時代そのものが足を引っ張ったか(?)
なんとなく『http://www14.ocn.ne.jp/~walkon/movie/67uchujin.html』っぽい世界観。
「少年の夢」として出てくる、
ホリゾントの中を走る自転車選手たちのカットが
むやみにシュールで思わず笑ってしまいました。


『白い長い線の記録』は以前川崎市市民ミュージアムで見た時に
「HPF」的にイタく感動したんですけど*2
ナレーションすれば済むことをどうしても絵でわからせる!
という姿勢がスゴすぎて感動しますね〜!
「年度別電力供給量」を溶鉱炉から流れ出る鉄で書く…ってのは
空前にして絶後のモーショングラフィックでしょう!
映像版会社案内、動くカタログとしての、ある意味での到達点。
CM・PRビデオ・TV番組制作者はこの映画を「極致」として
いちどは鑑賞しておくべきだとすら思います。いやホントに。


この二本で既にお腹いっぱいですが、最後の二本、
毎度おなじみイメージフォーラムフェスティバルに出品されたと思しき
ビデオ作品『気配』『偽装』は、
松本さんの50代後半〜いよいよ還暦という時期の心象が
素直に記録されたセルフ・ドキュメンタリーになっていて
こちらもかなり面白かったですね。なるほどいいプログラム。
『気配』はチャウシェスク政権崩壊当時の東欧の報道を見ながら
”消えた映画作家チェコのヤン・ネメッツ*3に思いを馳せるんですけど
松本さんご自身も60年代は作協VS映像芸術の会などで活躍した
反スターリン主義の旗手!(この辺りはどなたか早く研究してください!)
雑誌『シネ・フロント』でお馴染み”宿敵”木崎敬一郎氏からの
容赦ない批判「前衛ヅラした万年青年…」なんてくだりを
自ら丁寧に朗読してくださるところはもう心の中で拍手喝采です!
そういう点で、なんだかんだいってもとても真面目な方なんだなー
ということが作品から伝わってきて、
その「前衛ヅラした万年青年」ぶりにむしろ好感が湧いてくるのです。
いよっ前衛一代男!!


発注のある限り真摯に応えてきたアルチザンとお見受けしますので、
ぜひこれからも新作映画を期待したいところです。
松川八洲雄・藤原智子両氏とともに「東大美学トリオ」として
理研映画*4で映画人生のスタートを切った方ですから、
その50年にわたる政治遍歴の総決算的なドキュメンタリーを
どなたか依頼してはいかがでしょう!?

*1:http://www.momat.go.jp/FC/NFC_Calendar/2005-07-08/kaisetsu.html

*2:「映像版会社案内」の冒険。 - 4310

*3:1936年生まれ。監督作に『夜のダイヤモンド』1964ほか。

*4:社長の中崎敏氏は島根選出の社会党民社党代議士で、松本さんとは事あるごとに対立したらしいですね…。