島田虎之介『ダニー・ボーイ』

ダニーボーイ

ダニーボーイ

待望のシマトラ先生・長編第四作。
今回は「幻のミュージカルスター」を巡る偽史…ということで
ホラにもますます磨きがかかってます!
「1976年のトニー賞候補になった『極東組曲』」
 (敗戦と戦後民主主義の到来を"わざわざ"ミュージカル化した
 「敗北を抱きしめて」みたいに素敵なストーリー)は
「当時のNET(現在のテレビ朝日)から深夜に中継放送された」……
と言い切られてしまうと、もうホントにあったことに思えちゃいます。
こうしてでっかく広げられた風呂敷の中身は、
「彼」と出会った(すれ違った)様々な人々の思い出話から
戦後60年の「時代の片隅」が切り取られていく展開なので、
一度ならず二度、三度読むと「あっ、そうか!」という発見が続出。
なんとまあ濃厚な一冊。これから四回目に突入します(笑)


全9話にそれぞれテーマ曲的なサブタイトルがついているのですが、
先日、或る方の感想で「Youtubeで曲を聴きながら読んだ」とあって
なるほど!と思って「勝手にサントラ」を作ることにしました。
特に第二話の「Cheek to Cheek」では、
フレッド・アステアの「♪I'm in Heaven…」という歌詞があると
32ページの「満鉄の社員」さんの

ああ、これは 天国の… いや、「王道楽土」の歌だよ

というセリフがいっそう味わい深くなりましたよ!

「勝手にサントラ」案 by 4310

▽第一話「Come Sunday」
幻のミュージカルスター、サチオ・イトーの登場。
シマトラ先生ご本人のナレーションのBGMにはDuke Ellingtonを。


▽第二話「Cheek to Cheek」
サチオをとりあげた助産師・ツネ先生の満州回想。
Fred Astaireおじさんの「心地の良い悪夢」のような歌声(笑)


▽第三話「Hänschen Klein(ちょうちょう)」
サチオくんの幼友達、女社長のイケメン・コレクター人生。
男の子のソプラノ……こんな感じ?(不気味な映像ですみません)


▽第四話「Mustapha(悲しき六十才)」
会津若松での小学校時代、担任の女先生の60年安保の思い出。
同僚の大熊先生が岸信介(晋三グランパ)=長州陰謀説を唱えるのがイイですね。
サチオくんが教室で歌い踊ってた「悲しき六十才」の原曲。

合唱コンクールで歌ったスコットランド民謡「Loch Lomond」。

曲はちがうけど、映像的にはこんな感じもアリでは。


▽第五話「Little Drummer Boy/Funiculi Funicula」
太鼓歴40年のドラマー・ケイトさんと西口地下広場のママ。
安田講堂をバックにサチオがつぶやく
「ぼくのお祭りじゃないからね」ってセリフがグッときます。
ワタシは♪ラパパンパン…ってとこしか歌えません(1:35以降)

↑味わい深い人形アニメは日本製(中村武雄氏らのビデオ東京が制作)。

↑「みんなのうた」版。福島治さんの脱力系アニメがぴったり。


▽第六話「Hello Dolly」
サチオと劇団の同期生だったユリコさん(現在、明治座に出演中)。
劇団主宰が「誰」で、ユリコさんと「どういう関係」だったかは
次の回に明らかになるという周到さ(三周目にようやく気づきました)
サチオの下宿にポスターがあったBobby Darin版。

そしてLouis Armstrong & Barbra Streisand版。


▽第七話「Unforgetable」
35年前に日本でサチオを"発見"したイタリアの歌姫・ファブラ。
今やすっかりフォーゲッタブルな余生を送る彼女が垣間見せる
辛辣さと美学が味わい深いです。
Nat King Cole & Natalie Coleの父娘デュエット。


▽第八話「With a Little Bit O'Luck(運がよけりゃ)」
トニー賞ノミネート以後、消えていったサチオを目撃した
現役演出家・アニーが眺める「現代のブロードウェイ」。
かつての名士・ダルトン氏がスピーチでこぼす
「革命家は絶滅したよ "猫"や"ライオン"の時代だものな」
ってセリフは絶妙なリアリティがありますね。
スタジオ録りが"いかにもショウビズっぽい"Julie Andrews版を。

サチオのモデルになった実在の俳優がオーディションで歌ったという
「On The Street Where You Live(君住む街角)」。


▽最終話「Danny Boy」
飛行士学校の先生になったらしいサチオの歌声を聴いた
空港管制官・クロリスの記憶。
FBIの捜査官が見せた顔写真は、やっぱり9.11関連でしょうか。
空から聞こえるサチオの鼻歌……というイメージで考えた結果、
このRoy Orbison版はいかがでしょう。


もちろん、読み手それぞれの印象が違うように
選曲には異論反論が大いにあると思いますので、
「俺のサントラ(つまりシマトラのオレトラ)」を推奨します。


あー面白かった。感想を一言にまとめるとすれば、
コウイフ嘘ツキ二 ワタシモナリタイ。
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