浜野保樹『偽りの民主主義 GHQ・映画・歌舞伎の戦後秘史』

偽りの民主主義  GHQ・映画・歌舞伎の戦後秘史

偽りの民主主義 GHQ・映画・歌舞伎の戦後秘史

今月末で休館する日比谷図書館
たまたま見つけた本ですけど、
すごーーーーーーく面白かった!
題名の『偽りの民主主義』はちょっとハッタリ効かせ過ぎというか、
中身は『“オキュパイド・ジャパン”芸能秘録』といった印象。
大河ドラマにできそうなボリュームですので
各章と主要人物を列挙しておきますと……

第一章 日本映画最大の悪役(デヴィッド・コンデ)
第二章 「戦争をやる価値がある」(ボナー・フェラーズ)
第三章 『七人の侍』の原風景(東宝争議)
第四章 歌舞伎一斉に消ゆ
第五章 歌舞伎の救世主(フォービアン・バワーズ"伝説")
第六章 『羅生門』と黒澤明映画芸術協会と大映
第七章 グランプリとストラミジョーリ(イタリフィルム、本木荘二郎)
第八章 日本映画が輸出産業のホープ(『地獄門』、東南アジア映画祭、TOHO CINEMA)
第九章 日本映画敗れたり(『‚¢‚‚¢‚‚܂łà』『ƒAƒiƒ^ƒnƒ“』他)
第十章 アメリカ映画は娯楽の王様(蓄積円と合作映画)
第十一章 逃亡制作の急増(『ローマの休日』『“Œ‹žƒtƒ@ƒCƒ‹‚Q‚P‚Q』他)
第十二章 『蝶々夫人』はもう沢山(『八月十五夜の茶屋』『トラ・トラ・トラ!』他)
第十三章 俺は映画の殉教者(永田雅一から徳間康快へ)
第十四章 疵(長谷川一夫
第十五章 アズマ・カブキの海外公演(吾妻徳穂
第十六章 ガルボのラブレター(松尾國三中村歌右衛門三島由紀夫ほか)

『虎の尾を踏』んだ黒澤明さんが『トラ・トラ・トラ!』で挫折するまで
要所要所で登場したり、
読売争議で活躍した徳間康快さんが大映再建で不意に現れたりというように
様々な人物が時代を越えて登場する、
まさに大河ドラマみたいな語り口が面白いです。
日本円の国外持ち出し制限で生まれた「蓄積円」や
ハリウッドのユニオン対策としての「ランナウェイ・プロダクション」から
いわゆる<変な合作映画>が続々と生み出されたことなど、
映画史テリトリーではなかなか知ることのできなかった話が新鮮でした。


で、全編に出没して場を盛り上げるのが
「アイ・アム・ジャパニーズ・トランペット」こと永田雅一さん!
CIEのコンデ氏を共産主義者と認識して
「永田流の京都でのもてなし方」として
河上肇さんに会わせようとするのから始まって、
昭和45年の東京スタジアムでの胴上げ*1まで
ケッサクな言動のオンパレード。
特に、『羅生門』の試写の後のコメント

………………………………………………………………
……………………(約3分間の沈黙)……………………
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……なんやようわからんけど、高尚なシャシンやなあ!

は、今でもある種の映画に応用できそうな名句でしょう。
その生涯を通しての言動の無責任さは植木等主演映画級!
ムヤミな義侠心、ムダな男気に感涙必至です(笑)
渡米したアズマ・カブキ一行に若富・勝新兄弟が参加していたり、
大学生ジョン・ミリアスくんがロスのTOHO CINEMAで黒澤作品に出会ったり
張藝謀さんが『君よ憤怒の河を渉れ』を下放先の野外上映で見ていたり
(スクリーン手前側に1万人、スクリーン裏側に8000人いたそうです)
という「なるほど!」なエピソードがあちこちにちりばめられていて
よくぞ調べました!編集しました!という面白さ。
(ところどころでちょっと筆が滑り過ぎてる気もしますが-笑-)
大映創立70周年でも大映テレビ独立40周年でも結構ですので
ぜひともドラマ化してください!